或る暑中

さりげない言葉で昔を思い出して
急に背中を丸めて歩くようになった
僕は誰とも同じようにはできないから
右の手を内に隠して どぎつい眼鏡をかけている

君がくれた涼しい季節に滲む汗を
あの日、一番に拭い取ったんだ
美しい僕の気持ちを示すために
ベロの先の熱で溶けた 粘つく飴玉の甘さの欠片を
ほうら、君にあげるよ

風鈴が鳴いてる昼下がり
透明な忘れ物を寝かしてあるから
起こさないようにって、風に問いかけてみた

君がくれた涼しい季節に垂れた虹が
いまは街中を塗り染めているんだ
煩わしい君の背中の向こう側を
僕の爪の先で撫でて 張り付く薄桃の世界が見たい
何故、僕は醒めらんないの

たしかなものを探していたから
ポッケを弄る指は冷えていた

風鈴よ鳴かないでお願い
透明な隠し物がバレちゃうから
振り向かないようにって 風に問いかけてみた

さりげない言葉が今日も降り落ちて
いつものようなカッコで歩いてた
僕は誰かと似ていることはないだろうか
君に会えたらいいのにな ちょっと恥ずかしいけれど

 

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新年早々ですが、夏の詩です。
これを書いたのも確か思春期の頃でした。
切実な思いを綴っている詩ですが、実はそんなにロマンスはなかった青春時代でした。
願望を書いた詩だったのでしょうか。それにしては随分陰キャな男ですね。それでいいのか、って思いますよね。
まあ実際陰キャだったんですけどね。