斜陽

乾いた風に吹かれた君の頬に残る一筋の道に
思いを重ねた春の遠い夕方
積まれて消えゆく細い時間の中に いつもの横顔が浮かぶ
それが僕だと知ったのなら 
生まれた足音にただ耳を澄ましておいてよ
思い出なんて、
滲ませていれば見つめられるものだと思っていたのに
疲れた声で呟く昔の歌が どうしても好きになれなかった
僕は心を閉ざしながらも 君の奇妙な舌先に
魅せられ続けていたみたいだ
そんなこと、もう君は忘れてしまったけど
瑠璃色の言葉だけは今もまだ
僕の天井に放物線を描いてやってくるよ

求めることに罪を感じて 俯きながらも
僕は今日も求めて ただ求めて
捨てて切なくなったりしても 求めて
求めて、雨にも追いつけなくて
そんな眼差しを可哀想という言葉で
遺させるような真似だけは 許したくなくて
僕は僕として僕だけを抱いていた

陽が、傾いた時間と同じ頃に
君の呼んだ感傷が窓を叩いた
Tシャツの裾にぐるりと握られた懐かしい風の中で
僕はひとつ咳をした
斜めにゆっくり顔を上げてみた

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太宰治の『斜陽』が好きで、同じ名前の詩を書いてみたいと思って作った作品です。タイトルを思い付いてから書くというものも結構あります。
これは高校時代に書いた詩ですが、久々に読み返すとワードチョイスがなかなか面白くて結構好きですね。